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蛾類学会コラム6 ハネ退化研究のモデル昆虫、フチグロトゲエダシャク

新津修平

Fig. 1フチグロトゲエダシャクの交尾(上がオス。下がメス)

フユシャクガの中でも昼間のみにオスが飛翔活動する種類は2種いて、1種はフチグロトゲエダシャク、もう1種はカバシタムクゲエダシャクである。その中でもフチグロトゲエダシャクは、私が1994年に卒業研究としてハネの退化の仕組みを発生生物学的に研究する目的で研究材料に選んだフユシャクで、今でもこの研究を現在進行形で取り組んでいる。この虫を選んだ理由は、自分の好きな蛾を研究材料にたくさん飼育しながら未知な生命現象について解明したいという極めて不純な動機からだった。

東京農大の学部学生だった頃、JR大久保駅前の居酒屋「石狩」で蛾屋のサロンであった「ヘテロ会」の例会があり、毎月第4木曜日は大学の帰りにいつもこのサロンに立ち寄っていた。当時は携帯電話もEメールもなかった時代で、ヘテロ会での情報収集は自分にとって貴重な時間だったのを覚えている。成虫の採集については、ヘテロ会で知り合った日本鱗翅学会の猪又敏男さんを通じて、山梨県在住の白須英樹さんをご紹介いただき、山梨県笛吹川の河川敷にシーズン中何度も通い、メスの成虫採集をした。幸い虫も手に入り、卵を採卵し、幼虫を飼育し、研究用のサナギを400個体得ることができた。卒業研究で解った研究成果は、サナギの時期までオスと同様に一旦出来上がったメスのハネ原基が、サナギが夏休眠した後、秋になってサナギ休眠が覚醒した後、サナギの体内で成虫の形態形成が起きる際に食細胞による貪食作用と予定細胞死により退縮を起こして消失するという衝撃的なものだった。

投稿論文にまとめた後、10年近くこのフチグロトゲエダシャクの研究テーマから遠ざかっていた。2009年から再びフチグロトゲエダシャクを用いた研究を再開している。現在は毎年累代飼育をするにあたり近親交配を避ける目的で、自宅近くの多摩川の河川敷で飼育したメス成虫を使ったフェロモントラップを行っている(動画参照)。

Fig. 2 フェロモントラップに飛来し、交尾したフチグロトゲエダシャク成虫を確認する筆者(多摩川中流域の河川敷にて、2013年3月)

近年、実験室内で大量飼育が可能なカイコやショウジョウバエのようなモデル昆虫ではない非モデル昆虫を用いた実験生物学的な研究が増えてきている。このような研究が可能になったのも、アマチュア研究者・愛好者による各地での採集情報や飼育方法に関する知見の集積によるところが非常に大きい。昆虫研究の発展は、そのような愛好者による知見に支えられていると言い切っても過言ではない。

 

 

 

 

 

 

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Last update: 21 Feb, 2018