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蛾類学会コラム26 続 カトカラ全種制覇の旅

平坪和規

本コラム第20回にて「カトカラ年間全種制覇の旅」という拙文を掲載していただいた。アマミキシタバが最後まで採れず何とも不完全燃焼の感があったが、あれから約半年、今年もカトカラを追い続けた結果、2019年4月9日~9月15日においてワンシーズンでの「日本産カトカラ全種採集」を成し遂げることができた。

まずは因縁の相手、アマミキシタバである。なにせ縁がないのだから、これは現地に通い続けるしか方法はない。毎回、似た色合いのシタキドクガが幕に止まる度に溜息をついていたが、霧が立ち込める暖かな春の夜、ついに出会うことを許された。飛来した時は心臓が止まるかと思うほどに緊張し、毒ビンに収まった時の安堵感、達成感は今でも忘れられない。そして最高の喜びに浸ると同時に、今年こそカトカラ全種を採るぞと密かに思い始めていた。

しかし、人生そうは上手くいかないのが常だ。

にわかには信じ難い一報が届いた。「日本産カトカラに32種目が出た」というのである。

公に発表さたマホロバキシタバと呼ばれる奇跡の32種目。一目でいいから実物を見てみたいと思い、北海道でキララキシタバ等を採ったあと、都合をつけてすぐに現地へ向かった。マホロバキシタバの調査隊に運よく合流させていただき、樹液に飛来した個体を採集できたのは8月上旬。は擦れていたが、はまだ新鮮な個体も確認できた。他のカトカラに混じって未知の種が飛来してくる光景に大変興奮したが、住宅地が隣接するような丘陵地にも新しい発見が残されていたのかと思うと、今後のポイントや調査地の選定について考えさせられた採集であった。

その後も、今季未採集のカトカラを求めて中部山地を奔走した。他産地の個体の比較もしたかったので、昨年とはなるべく別の場所で採集することを心掛けた(結果、32種中28種を昨年とは別ポイントで採集した)。最後のエゾベニシタバを三角紙に収めた時、達成した喜びの反面この半年の採集を思い出して「終わってしまった…」と少し寂しい気持ちになったのは、ぐっと冷え込んだ初秋の空気のせいだけではなかったのだろう。

全種を採ると言っても、昨年は年間制覇という「記録」に執心していたが、今年は全種に「会いたい」という感情のほうが勝っていた。採集を重ねるうちに、外見の美しさだけではない一種一種それぞれの「良さ」が一層明確になったと同時に、日本産カトカラの多様性や奥深さについて改めて伺い知ることができたように思う。これもひとえに、さまざまな情報を下さり、お取り計らいいただいた関係各位の皆様方のお力添えの賜物である。この場を借りて厚く御礼申し上げる。

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Last update: 5 Dec, 2019