蛾類学会コラム21 ミクロレピ編~マルハキバガってどんな蛾?~
北島裕紀・外村俊輔
「キバガは未記載種が多いから、バンバン記載できるでしょ」
分類学徒になる前は、そのくらいの気持ちだった。ひょんな事からミクロレピであるマルハキバガ科(Promalactis属以外)の分類をすることになったが、その考えがどれだけ浅はかだったかを痛感した。
マルハキバガ科(Oecophoridae)はその名の通り、翅がえぐれず幅広で丸いのが特徴的なキバガ上科に属するグループだ。逆に言えば、「翅が幅広で丸く所属がよく分からないキバガがいたらとりあえずマルハキバガ科」として入れられた種も多い。現在全世界で約4,000種のマルハキバガが記録されており、その形態は多岐にわたっている(Fig. 1)。その全てを網羅するのは自分の人生はあまりにも短すぎる。そんなことは百も承知だが、せめて日本産の種相だけでも明らかにしたいと日々奮闘している。日本産マルハキバガ科はまだまだ解明されていないことも多いが、現在明らかになっているいくつかの知見などを紹介したい。なお、Promalactis属については、現在研究を行っている九州大学の外村俊輔さんに貴重な知見と画像をご提供頂いた。
Meleonoma属(Fig. 2):標準図鑑のAcryptolechia属は現在本属のシノニムとなっている。今年、記載予定の種が6種ほどいるが、未記載種を含めるとその種数はおよそ2倍になると思われる。ちなみにキスジクロコマルハキバガは個体数こそ多いものの♂が未見なので、是非とも♂を発見して欲しい。どこで採っても♀ばっかりのちょっと変わったマルハキバガなのだ。本属の幼虫は、枯れ葉を半分に折って綴ったポータブルケースを作り、コケ類から採集されている。
Promalactis属(Fig. 3):橙色の地色に白条、黒条や白紋のある前翅が特徴的な美麗種である。
東洋区と旧北区を中心に300種以上記載されており、国内からは標準図鑑に掲載された12種に加え学名未定5種が発表されているが、西南日本と南西諸島を中心に未だ多くの未記載種を抱えており、私見では種数はおよそ2倍になると思われる。幼虫は枯枝や樹皮、そこに付く菌類を食べているとされ、糞を糸で綴っている(外村俊輔)。
Barea属(Fig. 4):Barea属はオーストラリアを中心に104種が知られる非常に大きなグループである。日本産本属は、黄土色の地色に黒斑のある前翅が特徴的だが、標準図鑑未掲載で長い事謎のままとなっている。関東と奄美大島、沖縄本島から採集されているが、どうも1種ではないことが判明し、現在検討中である(九州・四国の標本を探しています)。幼虫は枯れ葉から採集されている。
マルハキバガは灯火によく集まるため、案外標本として残っていることが多い。しかし、いろんな標本箱を見ていると、ヒロズコガ科の不明種として整理されているマルハキバガを目にする事がある。もしかしたら皆さんの標本箱の中にも、マルハキバガ科と分からず、正体不明のまま眠っている標本もあるかもしれない。
日本産マルハキバガ科は、日本産蛾類標準図鑑(Ⅲ)にて16属32種がまとめられているが、未記載のまま和名だけ当てられてる種や、そもそも所載されていない種も多い。今現在不明種を含めて21属50種を超えることが予想されているので、そろそろマルハキバガ科についてまとめる必要がありそうだ。
最近は、ミクロレピに興味を持つ蛾屋が増えてきていると聞く。ミクロレピに興味をお持ちの方は、ぜひとも一歩踏み出して、採集・展翅・同定にチャレンジして欲しい。採れば採るほど新発見があるというのは、ミクロレピならではの醍醐味だ。皆で、ミクロレピ界を盛り上げていこうじゃないか。
Last update: 25 May, 2019