蛾類学会コラム11 超個人的萌えイモムシ毛虫
川田智子
このコラム歴々の素晴らしい研究成果や凄い発見譚に、萌えって何じゃという超個人的見解の雑文が加わり恥ずかしい限りだが、印象深い幼虫達を紹介したい。ご笑納下さい。
モモスズメ
獲得形質は遺伝しないと言われるが、孫と違って祖母は犬猫を始め生き物全般が苦手、特に虫が大っ嫌いだった。
私が物心付いた幼い日々、寝かしつける際よく昔話をしてくれた。浅間神社で登山者が行う祈願や、お正月のご馳走は塩漬けの秋刀魚だった等、大正時代富士山麓で生まれ育った思い出話の中に、注意喚起の重要性を促す持ちネタがあった。
「おばあちゃんが10歳位の頃、庭に桃の木があってね、ちょうど美味しそうに実が生っていたからいつものようにひょいっと取ったら、何と(と一呼吸おいてから)桃の実と同じ位の大きな大ーきなアオムシがいてね、気が付かずに一緒に握ってしまってね」
そのアオムシは手の中で潰れてしまい、必死に裏の小川まで走っていき手を流れに浸しても振り払っても握り潰してしまったモノは中々取れず大変困った、何事も気を付けなさいよと、おっちょこちょいな孫へ繰り返し何百回と話してくれた。
しかしその効果は現れず、孫はおっちょこちょいのまま虫好きになってしまった。
大人になり生前祖母にそのアオムシの特徴を聞いたが、覚えていないし思い出したくもないと身震いされてしまい、種の特定は出来なかった。
モモスズメの幼虫に初めて逢った時、果実に匹敵する大きさ、いかにもアオムシ的な緑色の体色、祖母が遭遇したのはこれに違いないと思った。
・・・子供の握力では無理っぽい?いやいやこれを握り潰せるとはある意味勇者だ!
触れた瞬間、スズメガよりさらに強く子供の手を払いのけるであろうヤママユや、握る前に硬い毛に触れて飛びのいたであろうオオミズアオを退け、我が家伝説のアオムシと認定している。
アゲハモドキ
初見はカキ氷が歩いている、だった。
蒸し暑い夏の公園、薄暗い園路のど真ん中を堂々と歩いていてやたら目立っていた。
体を覆う白い物質に触れると、そこらのカキ氷ではなく高級天然氷のカキ氷のようにスッと溶けるような手ごたえが印象的で、イモムシ毛虫ったらツルツル、ゴワゴワ、トゲトゲかモコモコじゃん、という決めつけを覆された。
ツルツルやモコモコ、身を守るために皮膚の硬化や毛の発達に進化したのは生き物の皮膚感覚で分かるが、蝋物質ムニューは延長線上にない。マジありえん。
手帳に写真を貼り、何かこう、思考が凝り固まったと思った時に眺めるようにしている。
Last update: 14 Jul, 2018