蛾類学会コラム23 シャクガ科ヒメシャク亜科の魅力
金子岳夫
「ヒメシャクは分からない」「なんでヒメシャクをやっているの?」など、蛾屋さんからはいろいろ言われてしまうヒメシャク亜科ですが、分からないからこその魅力を持っているグループとも言えます.
幼虫が「シャクトリムシ」として知られるシャクガ科は、日本に約880種が知られています。モコモコしていて翅形も斑紋もかっこいいタケウチエダシャクやトビモンオオエダシャクなどのBiston(ビストン)、晩秋に出現するエレガントなウスゴマダラエダシャクや、冬を中心に成虫が発生し、雌は翅が退化していることでも知られているフユシャク類もシャクガ科です。
そういったシャクガ科の中でも、ヒメシャク亜科は小型種が多く、色彩もまるで藁半紙や茶封筒のような色で、特徴的な斑紋も少なく、外観からは同定が困難な種が多いグループです(Fig. 1)。一言でいうと、やっかいなグループです。
顕微鏡(双眼実体顕微鏡)で微小な昆虫を見た経験がある人は分かると思いますが、昆虫の造形美には深い感銘を受けます。蛾の場合、日本産であっても外観だけでは種の同定ができず、解剖して交尾器などを顕微鏡で確認する必要が生じる場合が多々あります。ヒメシャク亜科にもそういった種が多数含まれており、まさに顕微鏡が必須アイテムとなってきます(Fig. 2)。
要は顕微鏡で虫を見る、という作業が楽しいわけです。単に外観を見ているだけでも楽しいのに、それを解剖して調べる、という作業は、少なくとも私が子供の時には設備や薬品のことを考えても不可能なことであり、まさに「オトナの楽しみ」を知ってしまったとも言えます。
このようなやっかいなグループを、当初から手探りで自分で調べていったというわけではありませんでした。1999年、私が佐渡島に赴任したことをきっかけに、蛾にも興味を持ち、採集していた標本の同定を新潟市在住の佐藤力夫さんにお願いしたところ、シャクガ科の一部は交尾器を解剖して同定されていました。それらの標本の交尾器は、いわゆる「台紙貼り」の状態で戻ってきたわけですが、私の方ではそれらを再度シャーレに戻し、検鏡してからプレパラート標本を作成していきました。このような過程の中で、シャクガ科を同定していく目が養われていっただけでなく、興味も湧いていったのだと思います。
シャクガは幼虫もおもしろい形態の種が多いですし、海岸、都市部の植え込み、山地そして高山帯にもさまざまな種が繁栄しています。前述のように厳冬期に出現する「フユシャク」もいます。成虫が昼間しか活動しない種、というのもいます。とにかく多彩な科であることは間違いありません。そしてそのようなシャクガ科には、ヒメシャク亜科という「やっかい」で「魅力的」なグループ(Fig. 3)もおり、私がそれらにも興味を持ってしまった、というわけです。
Last update: 22 Jul, 2019