蛾類学会コラム17 フルカワさんちのベランダ
古川雅通
多くの虫屋にとって九州の佐賀県といえばクロツバメシジミとかちょっと前ならオオクワガタぐらいしか思い浮かばない県であろうか。そんな虫的にあまり魅力のない土地に生まれ育ったものの、未だに虫にどっぷりハマったままである。大学進学、就職で15年ほど佐賀を離れたが、転職を機に佐賀へ戻り、1996年に母親の里の地に家を建てることになった。この場所は佐賀平野のちょうど縁にあたり、標高は5mの住宅地ながら裏庭には竹薮、それに続く丘陵には神社の鎮守の森があり、低地の蛾類を調査するには好適な環境と思われた。そこで、家を作るときに2階の裏庭向きの部屋に標本室と灯火採集用のベランダを設け、20w捕虫用ケミカルライトやブラックライトを毎晩のように点灯し、家にいながら蛾の採集調査ができるようになった。
1996年から約10年、気の向くまま採集、標本作成、同定し、いくつかの報文としてまとめ511種を記録した(古川、2004;2005;2007)。もちろん、ほとんどが低地で普通に見られる種で、いわゆるミクロはほとんど採集できていないが、大きい蛾でも予想外に種が豊富で、佐賀県新記録や記録の少ないものも採集することができた。今回はその中からいくつか紹介したい。
ナンカイキイロエダシャク(Fig. 1):2004年に発表した当時は、佐賀県に産するものはすべてキイロエダシャクと思っていたところ、熊本県や宮崎県でもナンカイが見つかって改めて見直したところ、ベランダで採れたものはすべてナンカイの方であった。
ヨモギエダシャク黒化型(Fig. 2):2000年前後は複数採集できたが、最近は見ていない。
キシタバ(Fig. 3):国内屈指のカトカラ貧弱県の佐賀県である。うちに来るのは本種だけ。
カギモンキリガ(Fig. 4):一度にたくさん飛んでくることはないが、飛んできたらついつい採ってしまう魅力的な蛾。
ホソバオビキリガ(Fig. 5):ウバメガシの分布と一致するらしいが、ウバメガシは当地にはなく、おそらくクヌギを食べているものと思われる。
ヤマトハガタヨトウ(Fig. 6):当ベランダの名物?で、10年ほど前までは11月に多数飛来した。
ところが、近年減少しており2シーズン採集できていない。でも最近若い熱心な蛾好きの方々が増えており、本種も珍品の座から降ろされる日も遠くないと思われる。
前に511種を記録したと書いたが、その後に採集したものは標本を作ったものの未整理で、近々、追加記録としてまとめてみようと思う。さて、合計何種になるかな。
Last update: 20 Jan, 2019