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蛾類学会コラム13 朝霧高原調査報告2018

阪本優介

Fig. 1 キシダムラサキヨトウ(岸田泰則氏提供)

キシダムラサキヨトウSideridis incommoda(アサギリヨトウ)は1888年にウスリーから記載された蛾で、1989年に岸田泰則氏と矢崎克己氏によって、日本で初めて静岡県の朝霧高原にて採集された(蝶と蛾 41巻 3号)。

それから30年ほど経ったが本種は、日本からは朝霧高原以外からは記録されず、朝霧高原でさえも20年ほど記録がない。
2017年、環境省の委託によるレッドデータ作成の為に本種の生息状況を調査した(蛾類通信No.285)。
昨年は生息を確認することができず、2018年も引き続き本種の調査をすることになったのだが、結論を言ってしまうと今年の調査でも確認はできなかった。

日本ではヨモギをホストとしているという記録があるが、このようなどこにでもある植物ではポイントを絞れない。大きく環境が変化したとは思えないのだが、この2年間の調査で得られなかったニセトガリヨトウが、30年前は同時に多数得られたと発見者の岸田氏から伺っている。我々には分からない環境の変化があったのだろうか。
走光性が強くない種なのか。ヨモギ以外の何かを食べているのか、はたまた絶滅してしまったのか・・・憶測の域を出ない。

 

今年の関東は梅雨が初めて6月中に明けたり、7月23日には東京都内で気温が初めて40度を超えるという猛暑を記録するなど気候の変動が激しく、虫の出現も例年とずれが感じられた。朝霧高原での影響も少なからずあるだろうと感じたが、行ってみないことには始まらないので、昨年とほぼ同様のメンバーで調査へと向かった。秋葉氏は過去に得られているポイントよりやや北側でライトトラップを行ったが、その他のメンバーは昨年同様の過去に採集された場所で調査した。
調査日と、調査員、主な採集品を以下に示す。


8月4日(飯森氏):ナチキシタドクガ、ネジロフトクチバ

8月10日(秋葉氏) :ギンモンセダカモクメ、ハイイロセダカモクメ、ダイセンセダカモクメ、ホシヒメセダカモクメ、キクセダカモクメ、クビグロケンモン、イブキスズメ

8月12日(阪本・矢野氏・野中氏) :クロシオキシタバ、ニセタバコガ、クロビロードヨトウ

8月14日(飯森氏):クロビロードヨトウ

8月21日(秋葉氏) :ヒメトガリヨトウ、ギンモンセダカモクメ、セダカモクメ、ハイイロセダカモクメ、クロビロードヨトウ


誰か、この蛾にチャレンジしてみてほしい。あの広い草原のどこかにひっそりと生き残っていることを願うばかりである。

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Last update: 16 Sep, 2018